マーケティングのフレームワークに「VRIO分析(ブリオぶんせき)」と呼ばれる考え方・理論があります。
VRIO分析はビジネスの経営資源から競争優位性を分析するフレームワークです。
競争優位性とは、ビジネスでの生き残りやすさだと思えば良いです。
目次
VRIO分析の4要素
VRIO分析では4つの要素について調べることで競争優位性を分析します。
- Value:価値
- Rarity:希少性
- Inimitability:模倣困難性
- Organization:組織
Value:価値
Value(バリュー)とは「価値」のことです。
VRIO分析でのValue(価値)とは、ビジネスを成功・継続するために役立つ、経済的・社会的な価値がある経営資源のことです。
例えば、現金・株式・債券などの資金、建物や土地などの不動産、技術力、提供している商品・サービス、人材の数や質、人脈、評判、ブランド、情報・知識・経験・ノウハウ・智慧、などがあります。
経営資源の価値が高く多いほど、競争で優位になりやすいです。
Value(価値)に関する分析では、自分(達)のビジネスで価値ある経営資源は何か、それぞれの経営資源の価値はどの程度の高さか、などについて情報を集めて分析します。
Rarity:希少性
Rarity(レアリティ)とは「希少性」のことです。
VRIO分析でのRarity(希少性)とは、自分(達)の商品・サービスがどれだけ珍しいか、ということです。
そして、単に珍しいだけではなく、商品・サービスが、顧客に求められていてニーズ・ウォンツがあるということも非常に重要です。
希少性が高い(顧客は欲しいと思っているが、数が少ない、代替品が無い、などの理由で、手に入れるのが難しい)ほど、競争で優位になりやすいです。
Rarity(希少性)に関する分析では、自分(達)の商品・サービスの希少性は高いか低いか、などについて情報を集めて分析します。
Inimitability:模倣困難性
Inimitability(イニミタビリティ)とは「模倣困難性(もほうこんなんせい)」のことです。
VRIO分析でのInimitability(模倣困難性)とは、自分(達)のビジネス・商品・サービスなど経営資源がどれだけ真似(マネ)されにくいか、ということです。
模倣困難性が高い(他の人に真似されにくい)ほど、競争は優位になりやすいです。
ビジネスの世界では良いと思われたビジネス・商品・サービス・アイデア・方法などはすぐに真似されてしまいます。
そのため、最初は価値・希少性の高い商品・サービスを提供するビジネスをしていたとしても、模倣困難性が低ければ(競合に真似されやすければ)、すぐに競争優位ではなくなってしまいます。
そのため、模倣困難性を高めて競争優位性を確保していれば、成功し続けるビジネスを経営しやすくなります。
Inimitability(模倣困難性)では、自分(達)のビジネスで、模倣困難性が高い要素はあるか、模倣困難性の高くするにはどうすれば良いか、などについて情報を集めて分析します。
Organization:組織
Organization(オーガニゼーション)とは「組織」のことです。
VRIO分析でのOrganization(組織)とは、自分(達)の経営・運営している組織(会社・団体・チームなど)が経営資源を適切に使えるような仕組み・体制・状態になっているかということです。
経営資源は有効に活用して初めて役に立ちます。
優秀で豊富な経営資源があっても上手く使ってなければ、宝の持ち腐れです。
経営資源を有効活用できる組織であればあるほど、競争で有利になります。
Organization(組織)に関する分析では、自分(達)は今持っている経営資源を上手に活用できているか、経営資源を有効活用するような取り組み・ルールが存在するか、などについて情報を集めて分析します。
VRIO分析の分析手順
VRIO分析の分析手順は、V・R・I・Oの4要素について順番に分析します。
自分(達)のビジネスの経営資源がVRIOの4要素を満たしているか順番に確認していきます。
そして、満たされていない要素があった時点で、自分(達)のビジネスの経営資源について評価します。
- Value(価値):その経営資源は売上・利益を上げることに役立っているか?
- Rarity(希少性):その経営資源はめったに無いものか?
- Inimitability(模倣困難性):その経営資源は真似されにくいか?
- Organization(組織):その経営資源を充分に活用できるような組織になっているか?
Value(価値):その経営資源は売上を上げることに役立っているか?
最初に、自分(達)の経営資源がValue(価値)の要素を満たしているか分析します。
Value(価値)の要素を満たしているかを確認するために、その経営資源は売上・利益を上げることに役立っているか?について検討します。
ビジネスは最終的には売上・利益を上げることを目的とします。
何らかの社会貢献をすることなど、利益追求以外の理念・目的を持って活動していたとしても、ビジネスである限りは経営を継続するために、一定の売上・利益が必要になります。
そのため、経営資源が売上・利益を上げることに役立っているかを確認することは、Value(価値)の要素を満たしているかを判断するために非常に根本的で重要な基準になります。
Value(価値)の要素を満たしているか確認するための他の質問としては、高い利益率を出すために役立っているか?、新規顧客の獲得に役立っているか?、リピート購入に役立っているか?、人気が高くて売れる商品・サービスの開発に役立っているか?、良い評判や口コミが生まれることに役立っているか?、自然や社会に貢献することに役立っているか?、などがあります。
これらの質問に「はい」「いいえ」のどちらで回答するか、あるいはどのように役立っているかを回答することで、経営資源の経済的・社会的な価値を、VRIO分析の観点から評価することができるようになります。
Rarity(希少性):その経営資源はめったに無いものか?
次に、自分(達)の経営資源がRarity(希少性)の要素を満たしているか分析します。
Rarity(希少性)の要素を満たしているかを確認するために、その経営資源はめったに無いものか?について検討します。
自分(達)の経営資源の希少性が高ければ、競合には無い独特の特徴を持っていることになるため差別化しやすく、自分(達)のビジネスの強みがより強力になります。
逆に、希少性の低い経営資源が多いビジネスは、競争が激化しやすい特徴を持っていることになります。
Rarity(希少性)の要素を満たしているか確認するための他の質問としては、競合が持っていないような経営資源か?、取引先・顧客・競合などから「あなた以外のところでは見聞きしたことが無い」と言われる・思われるような経営資源か?、同じ業界内では珍しい経営資源か?、などがあります。
Inimitability(模倣困難性):その経営資源は真似されにくいか?
3番目に、自分(達)の経営資源がInimitability(模倣困難性)の要素を満たしているか分析します。
Inimitability(模倣困難性)の要素を満たしているかを確認するために、その経営資源は真似されにくいか?について検討します。
模倣困難性が高くて真似されにくいほど、競合との競争に有利であり続けやすいです。
逆に、模倣困難性が低く、すぐに真似されるような経営資源であれば、常に新たな競合が現れて増えやすく、競争が激しくなりやすくなってしまいます。
Inimitability(模倣困難性)の要素を満たしているか確認するための他の質問としては、特許・商標・機密保持契約など法律によって守られている経営資源があるか?、重要な経営資源は企業秘密にしているか?、真似しようと思っても真似するのが難しいか?、参入障壁は高いか?、などがあります。
Organization(組織):その経営資源を充分に活用できるような組織になっているか?
自分(達)の経営資源がOrganization(組織)の要素を満たしているか分析します。
Organization(組織)の要素を満たしているかを確認するために、その経営資源を充分に活用できるような組織になっているか?について検討します。
経営資源は組織が活用して初めて価値があります。
価値ある経営資源も活用しなければ無価値になってしまいます。
Organization(組織)の要素を満たしているか確認するための他の質問としては、経営資源を活用するルール・基準などが存在するか?、組織の人々は重要な経営資源であると認識しているか?、その経営資源を最も売れている商品・サービスに活用しているか?、などがあります。
VRIO分析による経営資源の4段階評価
VRIO分析の次の手順は、VRIOの4要素を満たしているかどうかによって、経営資源を評価します。評価には4段階あります。
- 競争劣位
- 競争均衡
- 一時的な競争優位
- 持続的な競争優位
競争劣位
1番目の評価基準であるValue(価値)の要素が満たされていない状況です。
Value(価値)を持っていない状況は、「競争劣位」になります。
競争劣位の状態では、経営資源に価値が無いため、競合との競争に勝ちにくく負けやすいという評価になります。
競争均衡
「競争均衡(きょうそうきんこう)」は、1番目の評価項目であるValue(価値)は満たされていて、2番目の評価項目であるRarity(希少性)は満たされていない状況です。
競争均衡の状態では、競争が激化しやすいです。
一時的な競争優位
「一時的な競争優位」は、Value(価値)とRarity(希少性)は満たされていますが、3番目の評価項目であるInimitability(模倣困難性)は満たされていない状態です。
一時的な競争優位では、競合が自分(達)の真似をしなければ優位な状態を保っていますが、真似をされてしまったとたんに競争が激化する可能性があります。
持続的な競争優位
「持続的な競争優位」は、Value(価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、そして4番目の評価項目であるOrganization(組織)、4要素全てを満たしている状態です。
持続的な競争優位は、競合との競争に有利で勝ちやすい状況が持続・継続する可能性が高いことを表しています。
経営資源を有効活用できるかどうかは、最終的に組織(の人)にかかっています。
そのため、4番目の要素であるOrganization(組織)が、経営資源を有効活用できていれば持続的な競争優位になります。
しかし、経営資源を有効活用できていない評価だった場合は、Value(価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、の3つの要素が満たされている経営資源であっても、経営資源の評価は、最悪「競争劣位」になってしまう可能性があります。
なぜなら、どれだけ価値・希少性・模倣困難性がある経営資源であっても、組織を経営・運営する自分(達)が活用しなければ、競争優位になることは有り得ないからです。
そのため、Organization(組織)の要素をどの程度満たしているかによって、競争劣位、競争均衡、一時的な競争優位、持続的な競争優位、のいずれかの評価になります。
VRIO分析の結果を表現する2つの方法
VRIO分析の結果を表現する方法は2種類あります。
- チャート
- 一覧表
チャート
YES/NO(イエス・ノー)チャートやフローチャートのようなチャート形式で分析結果を表現します。
V、R、I、Oの順番に確認していき、満たされていない要素があり、「満たされていない(いいえ、なし、NO)」になった時点で、経営資源の評価を行います。
「満たされている、(はい、あり、YES)」だった場合は、次の順番の要素を満たしているか確認します。
チャート形式は、必ずしもVRIOの4要素の全てについて検討するわけではありません。
そのため、一覧表形式よりも、手間が少なく、早く分析を完了させることができます。
また、分析する経営資源の種類が少なく、経営資源の優位性を単に評価したい場合に向いています。
一覧表
Value 価値 |
Rarity 希少性 |
Inimitability 模倣困難性 |
Organization 組織 |
評価 |
なし | あり・なし | あり・なし | あり・なし | 競争劣位 |
あり | あり・なし | あり・なし | あり・なし | 競争均衡 |
あり | あり | あり・なし | あり・なし | 一時的な競争優位 |
あり | あり | あり | なし | 競争劣位 競争均衡 一時的な競争優位 |
あり | あり | あり | あり | 持続的な競争優位 |
VRIO分析の結果を一覧表にする形式です。
分析する経営資源がVRIOの4要素をどのように満たしているかによって、一覧表の中から当てはまる評価(競争劣位、競争均衡、一時的な競争優位、持続的な競争優位)を見つけて確認します。
一覧表形式は、経営資源がVRIOの4要素全てについて、どのように満たしているか検討します。
そのため、チャート形式よりも、分析に手間と時間がかかりやすいです。
一覧表形式は、分析する経営資源の数が多く、経営資源の優位性を全体的に確認・評価したい場合に向いています。
VRIO分析のメリット・デメリット
VRIO分析のメリット・デメリットについて話していきます。
実際のビジネスに役立つ視点を持ったフレームワーク
VRIO分析のメリットは、実際のビジネスに役立つ視点を持ったフレームワークであることです。
VRIOの4要素は、実際のビジネスにおいても重要で、Value(価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)、が満たされている経営資源は、成功して生き残りやすいビジネスを構築するのに役立ちます。
マーケティングのフレームワークの中には、分析をすることには役立っても、実際のビジネスの経営・運営には役に立たず、自分(達)のビジネスの成功に貢献しないことも多いです。
しかし、VRIO分析で分析する視点は、実際のビジネスでマーケティングを考える時に確認する重要ポイントになっています。
経営資源を客観的に正しく評価しにくい
VRIO分析のデメリットは、経営資源を客観的に正しく評価しにくいことです。
分析する経営資源が、VRIOの4要素(Value(価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織))を、持っているかどうか、満たしているかどうか、判断・評価するのは分析者の主観になります。
ただし、例えば、分析する経営資源を使用した時としない時で売上に30%以上の差があればValue(価値)がある、同じような経営資源を持っている競合が3社以内であればRarity(希少性)がある、自分(達)と同じ経営資源になるように真似しようとすれば10年以上の研究と30億円以上の資金が必要なのに加えて特許で保護されていればInimitability(模倣困難性)を持っている、経営資源を活用するための制度・ルールが設定いることと経営資源を実際に利用して年間3000万円以上の売上を上げていればOrganization(組織)の要素は満たされている、などのように客観的な基準を作って評価することもできます。
しかし結局、どのような基準を作るのかは自分(達)の主観になってしまいます。
そのため、VRIO分析での評価が客観的に本当に正しい評価なのかは分からないままです。
主観的な評価になってしまうということは、間違った評価をしてまう可能性があります。
つまり、Value(価値)があると評価したが実際には客観的な事実として価値が無かったため投資に失敗した、Rarity(希少性)は無いと評価していたが実際は非常に希少性の高い経営資源だったため成功するビジネスチャンスを逃した、といったようことが起こり得るということです。